カインに刺され、倒れてしまった王子様・・・。彼の命は助かるのかしら・・・?

〜Beauty and Beast〜

「≪魔法使い≫!!」
頼子は身体を拭くことも忘れ、一目散に王子の傍に駆け寄る。王子は脇腹から大量の血を流していた。
「大変・・・!!」頼子は青ざめた顔つきで王子の脇腹を見やる、急いで救急箱を探そうとする、が―――。・・・ガシッ・・・。頼子の腕を、王子の大きな手が掴んでいた。頼子は慌てて王子の傍に座りこむ。
「≪魔法使い≫・・・大丈夫?今手当てしてあげるからね?」頼子は王子の手をほどこうとする。
しかし、王子は手を離そうと無しない、頼子がほどこうとする程に、いっそう握る力を強めている。
「・・・≪魔法使い≫・・・?」頼子は不安になって王子の顔を覗きこむ。
王子は頼子の顔が良く見えるように、仰向けに体勢を変える。動くたびに脇腹から血が溢れた。
「≪魔法使い≫!!無茶しちゃダメだよっ!!」頼子は自分の服を破ると、血の流れ出す脇腹にあてがった。
王子はぜぇぜぇと、息苦しそうに喘いでいる。いつも強い輝きを放っている瞳は、どこか虚ろでさえあった。「ライ・・・コ・・・」王子が切れ切れになりながらも、頼子の名前を紡ぐ。
頼子は「無茶しないでってば」と言い募るが、王子は聞く耳を持たない。
「・・・すまんな・・・辛い思いをさせて・・・。」
頼子は首を縦に振る、泣きそうになりながらも、必死で語を紡いだ。
「そんなコト無い・・・そんなコト無いよっ、あたし・・・辛い思いなんて、これっぽっちもしてないよ・・・。」
王子は苦笑いを浮かべながら、優しく頼子の頭を撫でる。雨で濡れた手は、冷たかった。
王子は弱々しく手を床に落とす、もはや瞳にいつもの輝きは見てとれなかった。
頼子は泪をぽろぽろ流しながら、王子の大きな身体にしがみつく。
「ヤダよ≪魔法使い≫・・・死んじゃヤダぁ・・・。」嗚咽を洩らしながら言う。
王子は優しく微笑みかけると、頼子に唇を落とした。「・・・一目・・・ライコに出会えて・・・よかった・・・」ゆっくりとそう呟くと、笑みをたたえたまま静かに瞳を閉じた。頼子はハッとした顔つきで身を起こした、まじまじと王子の顔を見つめる。
醜く、恐ろしい獣の顔―――。しかしそれは頼子にとって、誰よりも美しい死に顔だった。「ま・・・ほ・・・ぅ・・・つ・・・か・・ぃ?」頼子はうまく言葉を紡ぐことができない、イヤイヤをする様に首を縦に振った。
頼子の大きな瞳からは、大粒の泪が溢れている。止まることを知らないかのように、とめどなく溢れ出していく。
頼子は泪を拭う、赤く腫れた瞳で、もう二度と目覚めない王子に口づけた。「・・・愛してるよ、≪魔法使い≫・・・。」そう言って、強く王子の身体を抱きしめた。
すると、二人を見届けたかのように、あの薔薇の花びらが、最後の一枚を散らせた。
城に居る誰もが、泪ながらに二人を見ていた。
――― その時だった ―――
「やぁっと解ったみたいだね」
頼子は驚いた顔で声の方を見やる、そこには、赤い髪の天使が居た。そう、王子を獣の姿にしたあの天使である。
「だぁーいぶと長くかかったけど、まぁ一件落着ってことね。約束どうり魔法を解いてあげる。」
天使は傍らから、三つ十字の杖を取り出した。杖の先端を、王子に向ける。
「“再生”!!」
天使がそう言うのと同時に、城全体がまばゆい光に包みこまれていく。
城だけでは無い、≪愚者≫も≪死神≫も≪正義≫もマダムも唯も、皆がまばゆい光に包みこまれていく。
頼子はハッとして王子のほうを見やった、王子もまた光に包みこまれている。
「どっどうなってるの?」頼子は呆然としながらも、事の終息を待った。
天使は嬉しそうに微笑むと、王子に小さな声でそっと呟いた。
「幸せになりなさい」
天使はそう言って、天高くへと飛び立ってしまう。天使が居なくなると、光も消えてしまった。

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投稿者後書き

ついに次回が最終回です。
感動の雨霰になる予定です、たぶん。

 

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