カインに刺され、息絶えた王子様。天使にかけられた魔法はとけたようだけど・・・?
〜Beauty and Beast〜
「もっもっも・・・戻れたぁぁ!!!!!!」
≪愚者≫が大きな声で叫ぶ、頼子は驚いた表情で≪愚者≫の姿を見やった。
「・・・・ぐ・・・しゃ?」頼子は目をまん丸にしている。
それも仕方の無い話だろう、今までは小さな燭台だったあの≪愚者≫が、いきなりど派手な格好の青年に変わっていたのだから。
≪愚者≫はひとしきり叫ぶと、満足したように満面の微笑を見せた。
「ライコちゃーん♪見てよ俺の真の姿っ、かっこよくて惚れ惚れしちゃうだろぉ♪」
頼子は首を横に振った、≪愚者≫は「ぶーぶー」と文句をたれる。
ふと見ると、今まではRPGのボスキャラが居そうな感じだった城も、真っ白で美しい童話の世界に有る様な物に変わっていた。
「何がどうなってんの?」頼子は今だ状況がつかめない。
「私たちにかけられていた魔法が解けたのだよ。」
静かな声音が届く、≪死神≫の声音だ。
頼子が声の方に振り向くと、そこにはピンク色の髑髏を着た≪死神≫が立っていた。
「魔法・・・?」頼子は王子たちが魔法にかかっていたことを知らなかったのだ。
「そう、大昔に私たちにかけられた魔法・・・。」≪死神≫は思い返すように呟く。
「王子が真実の愛を知るまで、解かれることはない。そう言っていた。」
頼子は「王子」という単語にハッとする。
「・・・・≪魔法使い≫は・・・・?」
頼子は慌てて王子を見やる、王子を包んでいた光は、徐々に徐々に薄くなっていく。
そして王子を包んでいた光は跡形も無く消えた。
「・・・え・・・?」
そこに居たのは、毛むくじゃらで、恐ろしく、醜い姿をした王子ではなかった。
豪奢な金色の髪の、美しい青年―――そう、頼子が西の外れの部屋で見た写真の青年その人だった。
頼子は声が出なかった、ただ、瞳から泪が堰を切ったように溢れだしてくるのみだ。
金色の髪の青年は、ゆっくりとまぶたを開けた。獣の頃と唯一変わらない、宝石のような瞳が輝いていた。
「・・・ライ・・コ?何故・・・泣いている?」王子はゆっくり身を起こした。
しかし頼子は嗚咽を洩らすのみで、王子の問いかけに答えることは無い。
王子はそっと、ライコの頬に唇を落とした。
「ライコ・・・泣くな、ライコの泣く顔は見たくない。」優しく頭を撫でながら言う。
頼子は泪を拭くと、赤くなった瞳で王子を見た。
「バカぁ!!!心配したんだからぁ!!!」
そう言って、王子の広い胸元に飛び込んだ。
「良かった・・・生き返って・・・本当に良かった・・・。」
王子は嬉しそうに笑うと、頼子の身体をそっと抱きしめた。
「ライコお姉ぇちゃーん!!!」
頼子の背中に、どすんと体重がかかる。≪正義≫だ。
≪正義≫もまた、小さなカップの姿では無い。明るい水色の髪をした男の子になっている。
「ライコお姉ぇちゃんのおかげで元の姿に戻れたよ!!ありがとう!!」嬉しそうにさらに体重をかけてくる。
「せっ≪正義≫・・・重い・・・・・。」頼子は苦しそうにうめく、≪正義≫は慌てて頼子から離れた。
見ると、マダムも唯も、人間の姿になっている。
「本当に・・・魔法が解けたんだ・・・・。」頼子はまだ信じられないといった感じだ。
王子は頼子を強く抱きしめる、輝く宝石の瞳が頼子の姿を映していた。
「≪魔法使い≫たちが元に戻れたのはライコの
おかげだ・・・感謝している。」
頼子は少し照れくさそうに顔を赤らめた。
「これからもずっと・・・俺の傍に居てくれるか?」
頼子は王子の顔をまじまじと見た、真剣な顔つきで頼子を見ている。
「・・・うんっ!」
頼子はニッコリと微笑んだ。
昔々、ある所にそれはそれは美しい王子様が居たそうよ。
王子様はその偏屈な性格のせいで、天使に魔法をかけられてしまったの。
そのせいで醜く恐ろしい野獣になり、お城に閉じこもってしまったの。
王子様は魔法を解くことも忘れ、ひっそりと暮らしていたわ。
そんなある日、一人の少女が王子様のお城にやってきたの。
二人は最初は仲違いしてたけれど、いつしか心を寄せ合って・・・。
そして、幸せに結ばれたそうよ・・・・。
お終い。