厩に閉じ込められてしまった頼子ちゃん、外に出ることはできるのかしら・・・?


〜Beauty and Beast〜


《正義》は小さな身体を動かし、必死に煙突のある古い家に向かっていた。一刻も早く頼子を助けたかった。
ぜぇぜぇと息を切らしながらも、やっとのことで煙突のある古い家を見つけた。《正義》は嬉しそうに目を輝かせる。

―――そこに行って髪の黒い男の人にここに来るように言って欲しいんだ。―――

《正義》は頼子の言葉を思い出す、全身の力を振り絞って煙突のある家のドアに体当たりをかました。

バァァーーン!!!

《正義》の猛烈な体当たりに、古い木戸はいとも簡単に開いてしまう、《正義》は家の中へ転がりこんだ。
家の中に居た《戦車》は顔色ひとつ変えていない、しかし一応気になっているらしく、そっとドアに近づいた。
しかし、誰も居ない。気のせいかと思い、大河のいる部屋へ戻ろうとした―――その時だった。

「待ってっ!!!お願い待って!!!」

《正義》は《戦車》の長い髪を引っつかむ、《戦車》はイキナリかかった声に一ミリほど驚いた様子を示した。
「・・・誰だ、どこに居る。」《戦車》は、まさか自分の髪に声の主が居るとは露とも思っていない。
「ここっ!!ここだよぉ!!」《正義》は髪の毛をぐいぐい引っぱりながら《戦車》に呼びかける。
《戦車》は髪の毛から声がしていることに気づき、声の主に触れてみた。手でそっとつかんでみる。
《戦車》は手の内にある小さなコップ―――もとい《正義》を―――じっと見つめ、一言呟いた。

「・・・何なのだ、貴様は。」

《戦車》的にはそれが精一杯の驚きであった、《正義》はあまり驚かないことに戸惑いながらも話し出した。
「ライコお姉ぇちゃんが!!大変なんだ!!厩に閉じ込められてて・・・ここに行ったらあなたが助けてくれるって・・・!!」
一気呵成に説明する、《正義》は一刻も早く頼子を助け出したいのだから、慌ててしまうのも無理はない。
「・・・ライコお姉ぇちゃんとは誰だ・・・?」《戦車》は至極当然のつっこみを入れてしまう。
《正義》とは違い、《戦車》は頼子のことをずっと『頼子嬢』と呼んできたのだから、この質問は当然と言えば当然だった。
《正義》はますます慌て気味になって説明する、「お姉ぇちゃんだよっ!!髪の毛が茶色で、目がくりっとしてて・・・」
《正義》は必死に伝えようとする、《戦車》は少し考えてからハッとした表情に変わり、言った。

「それはまさか・・・頼子嬢のことか・・・?」

《正義》は泣き出しそうになっていた顔をほころばせ、「そうだよ!!」と嬉しそうに叫んだ。
《戦車》はその言葉に慌てて身支度を始める、手に青龍刀を携えて家を飛び出した。
「まっ!!待って!!待ってってばぁ!!」《正義》も慌てて《戦車》の髪にひっついた。

ドンッ!!ドンッ!!ドンッ!!

一方、厩の中の頼子は全体重をかけて厩の扉にタックルを仕掛けていた。
厩の扉は、外から鍵がかかるようになっているらしい、おまけになかなか頑丈で、開きそうになかった。
「はぁ・・・まだかな《正義》・・・。」全身汗だくの頼子は、へなへなと地面に倒れこんでしまう―――すると。

「お姉ぇちゃん!!大丈夫?!!」

《正義》の声だった、頼子はがばっと起き上がる、そこには《戦車》を引き連れた《正義》の姿があった。
「《正義》!!ありがとう!!よくやったね!!」頼子は満面の笑みで《正義》に微笑みかける。
《正義》は照れくさそうに顔を赤らめ、「えへへ」と笑った。
頼子は《戦車》の方を見やる、久しぶりの再会であったが、喜んでいる暇は無いのである。
「《戦車》、お願い・・・ここから出して。あたし、どうしても行かなきゃならないんだ。」
頼子はカインを止めに行くつもりだ、このままカインをほおっておくわけにはいかない―――。

「・・・事情は聞かぬ、下がっていろ。」

《戦車》はそれだけを言うと、青龍刀を鞘から抜いた。頼子が当たらない距離まで下がったのを見計らって―――。

ザシュッ・・・!!

一太刀するだけで、厩の扉はいとも簡単に真っ二つになってしまった。
「ありがとう《戦車》!!」頼子は急いで城に向かおうとする、しかしその手を《戦車》につかまれた。
頼子はびっくりして《戦車》を見やる、《戦車》は静かな声音で言った。

「拙者の車で行くほうが早かろう・・・。」

良く見ると《戦車》の車はすぐそこに停めてあった、最初から頼子を乗せていく気だったのだ。
「・・・ありがとう!!」頼子はもう一度そう言って車に乗り込んだ。

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投稿者後書き

第20話です、ライコやっと外に脱出。
次回こそはカインちゃん対《魔法使い》様をお送りいたします。

 

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