〜Beauty and Beast〜
頼子は重い鞄を引きずるようにして持ち運ぶ、瞳には泪の跡があった。
「・・・お世話になりました」頼子はくぐもった声音で言う、王子は頼子の顔から眼を背けた。
「・・・それでは、君を村に送りかえすとしよう。」《死神》が木馬を呼ぶ、頼子はコクリと頷いた。
「そういや、《正義》のやつはどこ行きやがったんだ?」《愚者》がキョロキョロと辺りを見回す。
いつもはマダムの近くに居るはずなのだが、今日に限ってどこにもその姿が見当たらない。
「あいつ、あれだけびーびー泣いてたくせによぉ。」《愚者》はあきれた調子でため息をついた。
木馬は身体をギコギコさせながら頼子に突進していく、頼子は目をつぶらなかった、いや、つぶれなかった。
―――《魔法使い》―――
頼子は潤んだ瞳で王子を、否、《魔法使い》を見つめた。けれど、《魔法使い》は頼子を見ようとはしない。
―――どうしてなの?《魔法使い》―――
頼子は《魔法使い》と離れたくなかった、何故かは解からない、けれど・・けれど、傍に居たい。
しかし、木馬は頼子を無常にも村に送ってしまう。頼子は別れの言葉も言えぬままに、村に送り届けられた。
「・・・《魔法使い》の莫迦っ・・・」
頼子は、届くことの無い言葉を呟くことしか出来なかった。
「・・・お前さん、なんでライコちゃんを追い出したりしたんだ。」《愚者》が王子に問いただす。
しかし、王子は答えようとはしない。ただ、空から落ちてくる白い雪を見つめていた。
「・・・王子は、あの子にこれ以上情が移るのが嫌だったのでしょう?」《死神》が静かに口を開いた。
「王子・・・本当はあの子のことを好いておられるのに・・・何故です?」王子は宝石の瞳を潤ませる。
「・・・ライコが幸せになってくれるなら、
俺はそれでかまわない・・・。」
王子は消え入りそうな声で呟いた、けれど、思いとは裏腹に、その輝く瞳からは泪がこぼれていた。
「・・・お前さん、本気でそう思ってんのかい。」《愚者》はなおも引き下がろうとしない。
けれど、《死神》が《愚者》と押し止める。王子は何も言わぬまま、城へと入っていった。
「ミーナ?・・・ミーナ!!帰ってきてたんだね!!」カインが頼子の姿を見つけ、駆け寄る。
「会いたかったよミーナ、どこに行ってたの?」カインの傍に居たキャロラインは機嫌が悪そうな顔つきだ。
「・・・お父さんは?」頼子はただ、父に会ってもう一度城に行きたいことを告げたいのだ。
「・・・お父さんはご病気でね、お家で寝ているよ。」
頼子は口をあんぐりとあける、目は振り子のように揺れ動いていた。
「ミーナ・・・どこで何をしてたの?」カインは優しく聞いてくる、頼子は城であったことをすべて話した。
「・・・そう、そんなことが・・・。」カインは低くうなる、そしてハッと顔を上げた。
「お父さんが倒れられたのは、王子のせいだ!!」
カインが突然言い出した、頼子はポカンとカインを見つめている。
「そうだ!!そうに決まってる!!そうと決まればキャロライン!!一緒に城に乗り込むぞ!!」
カインは意気揚々と家へ帰っていく、頼子は慌てて追いかけようとしたが、一足遅かった。
―――《魔法使い》―――
村には、白い雪が降り続けていく。
投稿者後書き
第18話、何言わせてんだ俺。
でもこーゆー科白を《魔法使い》様に言って欲しいんです・・・。