「んー…」
「やっと起きたのか?」
「うぅ〜ん、あ、すばるさん、おはようございます〜えへへ」

寝ぼけているのか、顔にしまりがない。
しかし、そんな所もかわいい…などと思ってしまうのは
惚れた弱みというものだろうか。
だが、その直後、寝ぼけた新次郎が一瞬で覚醒するような出来事が起きた。

ポカン!

「わひゃあ!」
「あぁ!ごめんなさい!」
近くで親子連れがキャッチボールをやっていたのだが…
子どもがキャッチミスしたボールが見事に新次郎に直撃したのだ。
振り返ると、10歳くらいの男の子とその父親が駆け寄ってくるのが見える

「ごめんなさい、ボク…」
「申し訳ありません、私が着いていながら」
しょんぼりとする男の子と、謝罪する父親。
そんな二人に新次郎が怒ったりするハズもなく
「いいんですよ、はい、ボール。今度から気をつけてね」
にっこりと、僕の大好きな太陽のような笑顔でボールを差し出す新次郎
「よかったな、許してもらえて」
「うん!もう、お父さんったら、今度はちゃんとボクの方に投げてよね!」
「なんだと、ちょっと投げる方向がずれたくらい、お前が動いてキャッチしろよ」
「むー、お父さんが方向オンチなん…あ!お母さんだ!お兄ちゃん、またね」
少し離れた所に女性の姿が見える、おそらくあれが母親だろう。
二人はなんのかんのと言い合いながら、途中何度も振り返って
こちらに手を振りつつその女性の方に歩いていった。
「いいですねぇ、親子って」
「…そうだな」
その後はなんとなく会話が続かなかった。
なぜなら新次郎は落ち着きなくそわそわしだし、僕は黙り込んでしまったからだ。
「あの、昴さん…」
顔を真っ赤にして、口をひらく新次郎
…嫌だ、聞きたくない。
「ここ数ヶ月ずっと考えていたんです」
彼が言おうとしている事を察して血の気が引いていくのが分かる。
きっと僕は今にも倒れそうな顔色だろう。
でも、下を向いて自分の言おうとしている事に夢中になっている新次郎は僕の様子に気がつかない。
いつもだったら、僕の様子が少しでもおかしければ気がつくくせに
「ぼく綺麗な言葉を精一杯考えたんですけど、
どれもぼくらしくなくて、だから、ありきたりな言葉で申し訳ないんですけど…」
やっと顔を上げてまっすぐ僕を見る

「昴さん、ぼくと結婚して下さい」

新次郎、僕は君を愛しているよ。
僕が決めた新次郎との別れの時期
それは、彼が僕との結婚を望んだ時