当日1

『ごめんなさい昴さん
 急な用事が出来て、今日昴さんに会う事が出来なくなりました
 連絡も遅れてしまって本当にごめんなさい 大河』

僕のキネマトロンにその連絡が入ったのは
待ち合わせ時間からすでに1時間以上経過した後だった。

今日はいつもより早く起きて、彼の好きそうな服を選び
髪もサイドの髪を軽く結わえて、一見少女のような姿だ。
彼は僕が男の格好をしていても、なんの抵抗もなく受け入れてくれるだろうが、
彼も男だし、この格好の方がよろこんでくれるかもしれない
そう思って、今日はこの姿を選んだのだ。

待ち合わせ場所であるセントラルパークには5分前に着いた。
彼は時間に正確だから、かならず待ち合わせ時間より早く来るだろう
そう思って待たせないように、早めに来たのだが彼はいなかった。
めずらしい事もあるものだ、と思ったが
まだ待ち合わせ時間前でもあるし、さして気にも止めなかった
だが、待ち合わせ時間を10分過ぎ、20分過ぎても彼は現れず僕は心配になった。
彼は何の連絡もなく遅れたりしない。
彼の身に何かあったのだろうか?
キネマトロンに連絡を入れても返事がなく
探しに行こうとしたところで、新次郎からの連絡が入った。

昴は落胆した。
今日の事をとても楽しみにしていたから。
楽しみにしていた分、反動も大きくしばらくセントラルパークのベンチでぼんやりとしていた。
こんなとき、いつも何をしていたのだったか…
彼と出会う前の自分が、休日に何をしていたのか、まったく思い出せない。
そうやって、いくらか時間が過ぎた後、
ふと、キャメラトロンに届いた彼からのメッセージを
読み返して、心に何かがひっかかった。
落胆が大きく、それに気を取られて今まで気がつかなかったが
何かがおかしい。
僕はもう一度、メッセージを読み返してみる。

『連絡も遅れてしまって本当にごめんなさい』

…なぜ、連絡が遅れたのだろう?
彼の性格上、待ち合わせには十分間に合う様に家を出るはずだ。
その時点ですでに急用とやらがあったのなら、僕がホテルを出る前に連絡をくれるはずだ。
なのになかった。
と言う事は、「急用」は彼が家を出てから出来たのだろう。
それにしても、待ち合わせ時間から1時間後に連絡がくるのはいくらなんでも遅すぎる。
「急用」が出来たその時点で連絡をくれれば良いのだから。
つまり、連絡したくても出来ない状態だった、という事か…
…なんだか胸騒ぎがする。
僕は新次郎のアパートがあるビレッジ地区へ向けて駆け出した。

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