「あの…、え、あ」
顔を真っ赤にさせて口をパクパクさせる新次郎
かくいう僕も、きっと赤くなっている事だろう。
「あの、ぼくが25になるまでに、その…できなかったら、どうなるんですか?」
「その後も君と僕は仲間である事にはかわりないが
それ以上の関係ではなくなる」

この賭けは新次郎に対してじゃなく、本当は僕自身に対してのものだ。
今の僕の身体は子どもが出来ない。
もしなんらかの要因で成長が始まったとしても
この身体で無事に産めるかどうかもわからない。
でも
もしも奇跡がおきて、無事に育つようなら…
そうしたら、僕は彼の隣にいてもいいのではないだろうか
「で、どうするんだい?」
彼はこの賭けに乗るだろう。
僕の身体の事を知らない新次郎にはこの賭けに勝つ望みは高く見えるだろう。
どのみちこのままでは、平行線だ。
うぬぼれかもしれないが、ずっと僕との結婚を心から望んでくれたのだ
せっかくの好機を逃すとは思えない。

「のりません。ぼくはその賭けにはのりません」

驚いた。てっきり二つ返事でのってくると思っていたのに
「理由は?」
「僕が昴さんに結婚を申し込んだのは、ずっと、貴女とともにいたいからです。
それは、子どもがいようがいまいが関係ありません」
ふわり、と。
気がつけば、僕は新次郎にそっと抱きしめられていた。
耳元で新次郎の声がする
「ぼくは、たとえ一生自分の子どもが持てなくても、昴さんとともにいられれば、それでいいんです」
「っ!、な…」
「ごめんなさい、昴さん。ずっと1人で悩んでいたのは、この事だったんですね。
賭けの内容を聞いて、やっと、察する事が出来ました。」
「し、んじ…ろ…」
視界がゆがむ
「悩んでいた貴女にとって、ぼくのプロポーズはきっと、とても重荷だったでしょう
本当にごめんなさい」
「重荷なんかじゃない…、君が僕を求めてくれているのが確認できて
嬉しかった、でも、君に答えられないのが、ずっと、つらかっ…」
僕の言葉は涙でボロボロで、彼に上手く伝わっているだろうか、もどかしい
でも、もう、堰をきったかのように涙があふれて止める事はできなかった。
「確かに、ぼくは子どもが好きで、いつか奥さんと子どもと幸せになれたら…
その奥さんが昴さんだったら最高だと思ってました」
びくりと肩が震える。
「ごめん…僕は…」
新次郎がそっと頭をなでて、言葉を続ける
「でも今はいいんです。今のぼくには、未来のぼくの隣に昴さんが
いないなんて想像できないんです。だから、いいんです」
「でも…!」
本当は少し期待していた。
もし僕の身体の事を知っても、彼ならそう言ってくれるのではないかと。
でもそう思う度、彼から幸せを奪うようで、そんな期待を抱く自分を嫌悪してきた。
僕は新次郎が好きで、好きで、大好きでとても大切。
彼は僕にたくさんの幸せをくれたのに
自分は彼の望むものを与える事が出来ない事が辛かった。
彼を好きになればなる程、その辛さは増した。
だから、僕は彼と別れる事によってその辛さから逃げたかったんだ。
「ぼくがいくら子どもはいなくてもいい、と言ってもきっと
優しい貴女は、ぼくに後ろめたい気持ちを持ち続けてしまうのでしょうね」
「優しくなんてない!僕はただ、ずるいだけだ。
君の為だと自分にいい聞かせながら、自分が辛かったから逃げただけだ」
彼が僕を抱く腕に力を込める
「えへへ、ごめんなさい、ぼく嬉しいです」
見上げると、彼は本当にとても嬉しそうな顔をしていた。
思わず泣いていたのも止めて、きょとんとしてしまう。
「だって、あの昴さんが逃げちゃうくらい辛いと思うほど
ぼくの事を想ってくれてるって事ですよね。
うわぁ、どうしよう!もうすっごく嬉しいです!
昴さんかわいい、大好きです!」
言って頬にまぶたに額にと口付けてくる。
「ちょ、ちょっと、待て、やめ…」
顔を少し離してのぞき込むと
さっきまでの浮かれた表情は成りをひそめ真剣な瞳とぶつかった。
「昴さんに、ずっと引け目を感じさせるような事になってしまうと 分かっているのに…、
ごめんなさい。
ぼくはそれでも、10年後も50年後も貴女といっしょにいたいんです。
これはぼくのわがままなのはわかっています」
「新次郎…」

「でも、貴女がぼくのわがままを聞いてくれたら、
とても嬉しいです。聞いてくれますか?」

こうまで言われて、断る事なんて出来る訳がない。
またあふれ出した涙で声は上手く出せないけれど、精一杯の笑顔で昴は答えた。


おまけ