『ないしょの手紙』





「何で・・・・っっ!?」
それを見て、あたしは思わず絶句してしまった。
「ちゃんと元通りになってるでしょ?」
学校帰りのあたしの前に突然現れてそれをあたしに手渡した《女帝》が、
楽しげに笑っている。
 それは淡い水色の一通の手紙。

事の起こりは些細な事だった――――

* ◇◇◇◇

「ライコは字も下手だが部屋の掃除も下手だなぁ」
「うるさいっ。誰のせいでこんなになったと思うのよ」
「ライコのせいであろう?《魔法使い》に向けて投げた枕が素通りして戸
棚にぶつかったあげく、その戸棚が倒れてしまったのはどう見てもライコ
のせいであろうさ」
・ ・・・ああもうっっ!腹立つっっ!

 あたしは、しばらく前に学校のヘルハウスで《魔法使い》の封印をといて彼
の協力者というものになってしまった。
 あれは事故だってのにこいつは聞く耳もたない。
 端正な顔に長い金髪。頭にかぶった変な8の字帽。空を思わせる蒼いマント。
 自他共に認める美形好きの親友、唯が『持って帰っちゃダメかしら』とカー
ドに描かれたこいつの姿は、確かに見ている分には目の保養になるかなりの美
形顔。
 ――――だけど、立体化してしゃべるとなると話は別。
 口は悪いし、天上天下唯我独尊を自でいくとんでもない自信家のナルシスト。
 おまけに好戦的でクラッシャーだし。
 『運命のタロット』とかいうものの一員だとか言って、あたしを『協力者』
とかいうのに無理矢理決めるし。おまけにこいつと縁を切るにはどっちかが死
ぬまで離れられないって話だし。
 『運命のタロット』の事は関係者以外話してはいけないってことで、一連の
騒ぎの疑惑があたしに向いてても釈明すら出来ない。言ったところで信じては
くれないのが関の山だけれども。
 破壊と争乱を巻き起こし、得体のしれないカードの精霊とかが続々出てきて、
あたしを巻き込んでいくんだから。
 あたしにとって《魔法使い》は疫病神以外の何者でもない!
 平和な女子高校生活を返せーっって、叫びたいわよ。ほんとに。

 今日も学校までついてきて、授業中にちょっかい出してくるから思わず怒鳴
っちゃって、立たされた挙げ句宿題を出されてしまったのだ。
 『運命のタロット』の関係者以外に精霊の姿や声は見えたり聴こえたりはし
ない・・・のをつい忘れてしまったからだけれども、立たされた《魔法使い》
は詫びるどころか大笑いしてくれたのだ。
 ・・・・・カード破り捨てたくなる程腹立ったぞ。
 今も宿題をやっているところに逆さまで現れて(逆さまでってのがすでに人
を莫迦にしているとしか思えない!)、何だかんだと横から口を出し、あたし
が知らん振りしているといきなりノートを広げている机の真ん中に生首よろし
く現れてくれて。
 ・・・・さすがにビックリして怒鳴り付けた拍子に椅子ごと後ろに倒れちゃ
って、階下のお母さんに「うるさいっ」って怒られた。
 いつもならそこであたしが我慢に我慢して何とか終わらせるんだけど、さす
がに今日は・・・・キレた。
 起き上がった時に手にした枕を思いっきり《魔法使い》の顔めがけて投げ付
けて、それが《魔法使い》の身体を素通りし後ろの棚に当たってしまったのだ。
 ・・・・だってさ、頭に血が登ってたから。あたしの目にははっきりくっき
り見えるこいつらの身体が実は実体がないって事、すっかり忘れてたんだもの。
おまけにその衝撃で棚が倒れちゃって、その音の大きさにお母さんが飛ん
できて、こっぴどく叱られた。
ああもうっ!こいつが来てから本当にろくな事がないっっ!
 んで、腹立ちはおさまらないまま、とにかく掃除をしなければ寝る場所もな
いってんで片付け始めたのがさっきの事。

 「・・・・あんたも手伝ってよね」
 「何故だ?勝手に部屋を散らかしたのはライコであろう?」
 「・・・いいから手伝え」
 あたしの殺気さえこもった視線に、《魔法使い》もしぶしぶと手伝い始めた。
 倒れた棚を立て、固まったまま落ちているいくつかの本をまとめて浮き上が
らせて戻そうとした時、そこから何かがひらっと舞い落ちてきた。
「何だ?これは」
 《魔法使い》がひらひらと振るそれを目にして、あたしは思わずまとめてい
た小物を宙に放り出して勢いよく立ち上がった。
「それ・・・っ!?貸してっ!」
《魔法使い》の手の中にある、淡い水色の一通の封筒。
 忘れ去っていた記憶が一瞬にして蘇り、一気に顔が火照ったのがわかる。
 必死の形相でその手紙を取りかえそうとするあたしの様子に、《魔法使い》
の瞳が楽しげに光った。
 「ふむ。《魔法使い》に見られるとまずいものなのだな」
 「いいから貸しなさいよっ」
 掴み掛かろうとするあたしの手を軽々と交わして《魔法使い》の身体がふわ
っと天井近くに浮き上がり、またしても逆さまにぶら下がる。あたしがどんな
に飛び上がっても手の届かない場所で、彼の手が封筒から数枚の便箋を取り出
した。
 「!!止めてっっ!見ないで!!」
 「そう言われると余計に見たくなるものだぞ」
 意地悪気に楽し気に《魔法使い》がちらっとあたしに視線を走らせ、パラっ
と便箋を開く。
 「見ないでってばっっ!!」
 悲鳴に近い声。
 「ライコは相変わらず字が下手だなぁ・・・『片桐先輩へ』・・・・ふん、あ
いつへの手紙というわけか」
 ――――ギリっと唇を噛み締めた。
 真っ赤に染まった顔は、羞恥心よりも怒りの方が大きいだろう。
 一通り読み終わったのか。《魔法使い》が何ごともなかったかのように手紙
を元に戻し、指で弾いてあたしの目の前にふわふわと漂わせてきた。
 「ライコは昔からこんなことばかり考えていたのだなぁ。だから成績もさっ
ぱりあがらないのだぞ」
 小さなため息をつきながら、《魔法使い》は再びふわふわと散らかった物を
浮かせて片付け始めた。
 小さく震える手で、あたしは目の前に漂っていた手紙を握り潰す。
 「・・・・出てって」
 自分のものとは思えない程低い声があたしの唇から漏れた。
 ビリっと、手の中で手紙が破かれていく。あたし自身の手で。

――――渡すつもりはなかった手紙

 これを書いたのは、高校に入学して片桐先輩を知ってすぐの頃だ。
 遠目で見た時から、あたしの中に芽生えた恋。
 毎日、ほんの少しずつ先輩の事を知って。それが嬉しくて。
 片桐先輩の人気は高くて、親衛隊なんてものまでいた。親衛隊に入っていな
くても、あたしと同じように遠くから眺めて憧れている子もたくさんいた。
 彼女になりたい――――それはとても甘美で心ときめく夢。
 先輩に恋する総ての人が憧れる、切実で純粋な願い。
 あたしも、そんな1人だった。
 でも、あたしは知っていた。失恋の痛みと恐怖を。
 好きな人に受け入れてもらえなかった時のあの絶望と悲しみを負った心の傷
は、まだ完全に癒えてはいなかったから。
 想いが高まる度にこの傷はチクチク痛んであたしを臆病にさせていく。再び
同じ痛みを味わいたくなくて、まだ、自分に自信がなくて・・・・
 だけど、胸の想いは日々膨らんで。膨らみ過ぎて苦しいから、『手紙』とい
う形にしてあたしはそれを少しだけ外に出したのだ。
 先輩に宛てた、渡すつもりのない手紙。
 あたしがどれだけ先輩の事が好きか。誰にも見せるつもりのない手紙にはあ
の時のあたしの心がそのまま綴られていた。

 ――――ビリっ・・ビリリっ・ビリっ

手紙という形で保管しておいたあたしの心。
 「出てって・・・ここから。あたしの前から、消えてっっ!」
 手の中で細切れになった手紙をあたしは部屋中に撒き散らかした。
 紙吹雪のように舞い散る、あたしの心。
 「あんたの顔も見たくないっ!あんたのカードも同じように細切れにされた
くなかったら早く出ていきなさいよっっ!」
 思いっきり怒鳴り付けて、あたしは《魔法使い》のカードを彼の顔をめがけ
て投げ付けた。
あたしを支配する激しい怒り。もし視線に力が宿るのならば、きっと《魔
法使い》に大きなダメージを負わせることが出来たに違いない。    そん
なあたしの激しい視線を真正面から彼のダイヤモンドの瞳が受け止める。
ふっと、彼が目を逸らした。次の瞬間あたしの視界から《魔法使い》の姿
が消える。霊格すら残さずに、何も言わずに、最初から誰もいなかったかのよ
うに。
 「・・・・・さいってー」
 ギリっと唇を噛み締め勢いよくカーテンを閉めると、散乱している部屋をそ
のままにしてあたしはベッドに潜り込んだ。
 あまりにも激しい怒りに飲まれて、涙すら出てこない。
 枕に顔を押し付けて、あたしは《魔法使い》への罵詈雑言を並べ立てていた。

◇◇◇◇◇

 「何でこれをあんたが持ってるのよ?!」
あたしの険のこもった声に、《女帝》がひょいっと肩を竦めた。
「何でって・・・頼子に追い出された《魔法使い》に頼まれたからよ。あ
たしの象徴の力でこれを元に戻して欲しいって、ね」
 「あんたの象徴の力・・・?」
 「そう。ついでに頼子に渡してやってくれって」
 「・・・・・・あんたたちが親切でティターンズであるあいつのお願いを聞
いてやるとは思えないんだけど」
 「まったく、信用されてないわけね」
 ねめつけるあたしの視線に《女帝》が苦笑した。
 ふわり、と翼を広げ、座っていた木の枝から音もなく飛び下りる。
 「《魔法使い》はどこにいるのよ」
 「・・・・彼が心配?」
 「・・・・・・・別にっ」
 にこにこと意味ありげに微笑んでいる《女帝》の視線から、ふいっと顔を逸
らした。
 こいつがこういう顔をしているってことは、何があったのか全部知っている
ってことだ。
見透かされているようで居心地が悪い。
「あのプライドの固まりみたいな《魔法使い》が、わざわざあたしに頭下
げてきたんだよ?頼子の気持ちもわかるけど、許してあげなよ」
 「・・・・あんたに言われる筋合いないわよ」
 「ほら、そうやってすぐに意固地になる。いいじゃない、めったにないわよ
《魔法使い》に貸しを作っておけるなんて」
 「・・・・あのねぇ・・・」
 「これからも長い付き合いになるんだからさ」
 「あたしはごめんよ」
 「またそういうことを言う・・・そうそう、あたしが《魔法使い》の頼みを
きく代償として彼の力を少しもらっているから。行ってあげなよね。あんたが
側にいないと回復出来ないよ」
 《女帝》の言葉にはっと顔を上げた。
 「これで貸しは2つになるんじゃない?」
 どこか楽し気な《女帝》をあたしはねめつけた。やっぱりこいつはプロメテ
ウスなんだ。仲間でもない者に単なる親切心で何かをしてやることなんてあり
得ない。
 「・・・《魔法使い》はどこにいるのよ?」
 「知らないわ。探して見なさい。頼子にならわかるはずだから。仮にもあん
たは《魔法使い》の協力者なんだからさ」
 あたしの険しい視線を受けたにもかかわらず、《女帝》は嬉しそうに微笑む
と、不意に光の固まりと転じ消えてしまった。
 「あっ、ちょっと!」
 もうあたしの霊格じゃどこにも《女帝》を感じることは出来ない。
 ――――あたしの手に残された水色の手紙。
 「・・・・・・ったくっ!」
 くしゃっと乱暴にその手紙をスカートのポケットの中に仕舞いこむと、あた
しは早足で歩き出した――――

* ◇◇◇◇

カードはあいつに投げ付けてしまった。
だから、探そうにもあいつに呼び掛けることも出来ない。
あいつの行きそうな場所なんて・・・・わからない、けど。
足は勝手に学校へ向かっていた。
放課後の部活も終わって、生徒たちがいなくなった学校。
あたしはちよっとだけ考えて部室へ向かった。見回りの先生に見つからな
いようにこっそりと忍び込み、鍵をあける。
薄暗い部室の中は物音1つしない。
1時間程前までは、あたしはここで過ごしていた。昨夜からの怒りを多少
引きずってはいたけれど、今日はさすがに《魔法使い》は纏わりついてこなか
ったし、片桐先輩の顔を見たら少しは気が晴れたし。
今は、あたしの他に誰もいない。埃さえも舞わない、静かな部屋。
「・・・・・・《魔法使い》。いるんでしょ?」
そんな静けさを破ってあたしの声が部室の中に響いた。
「出てきなさいよ。隠れてるなんてあんたらしくないじゃない」
大きな声を出しているわけじゃないけれど、やけに大きく聴こえた。
力を消耗しているとしたら、
「それともあたしに怒られたくらいでいじけてるわけ?いつもはあたしの
言うことなんて聞きはしないくせに、自分に都合が悪い時だけずっと隠れてい
るつもり?」
・・・・・答える声は、ない。
「自信過剰なくせして、逃げるわけ?ちゃんとあたしの前に出てきなさい
よ、《魔法使い》」
・・・・・・・・・・・・
「・・・・・・・・・・出ていけと言ったのはライコの方であろう?」
ムスっとした声が、やっと返された。
思わず唇の端に笑みが浮かぶ。
棚の上にぼんやりとした光が集まって、青い固まりと化した。渋々出てき
たという感じであたしの方を向こうともしない。
確かに、いつもにくらべて彼から力が抜けていることがわかった。
そんな素振りはまったく見せていないけれども。
まだ短い時間しかたっていないけれども、それでもわかったのは彼の協力
者だからなのだろうか。
そんな《魔法使い》を見て、ずっと残っていた怒りがおさまっていく。完
全に消えはしないけれど。
「珍しいわね。いつもはあたしの都合なんかお構い無しのくせして」
ごそごそとスカートのポケットから手紙を取り出した。こっちを向きはし
ないけれど音でわかったのだろうか。《魔法使い》の肩がぴくっと反応する。

――――ビリっ・・ビリリっ・ビリっ

「!?何をするのだ!?」
紙を破く音でやっとこっちを向いた《魔法使い》が、あたしの行動に目を
見開いた。
昨晩と同じように、手紙があたしの手の中で細切れになっていく。
「ライコ!?何故・・・?」
「あんたって、あたしのこと『ダチョウ』だってしょっちゅう言うけどさ、
あんただってそうじゃない。これはもう意味のない物なの」
これは過去の想い。
表面は元通りになっていても、これはあたしが密かにしまっておいた手紙
ではなく、暴かれてしまった物だ。
そんなものをもう一度渡されても、意味なんかない。
「あんたが見ちゃった物を残しておくわけないでしょ?少しは反省してく
れたようだけどさ、だったら素直に謝ってもらった方がよっぽどスッキリする
よ」
パアっと細切れになった手紙をまき散らした。
紙吹雪のようにあたしの上を舞う、過去の想い。
こんなのはもういらない。
だって、あたしの中に。あの頃よりももっと大きくなった想いがあるんだ
から。
こんなことくらいで片桐先輩への想いが揺れるわけじゃない。
それに、《魔法使い》には最初から先輩への想いなんてばれちゃってるんだ
し。
腹はたったけれど・・・今回は珍しく悪かったって思ったようだし、行動
に現してくれたんだし。
「・・・・・だったら、あれ程に怒らなくてもよかったではないか」
「何言ってるのさ。あれはあんたがあたしのプライバシーを侵害したんで
しょ!?大切な秘密を覗かれて怒らない人がいるわけないじゃんか」
ボソっと呟いた《魔法使い》にあたしはビシっと釘を刺しておく。
「大体あんたはあたしの生活かき乱してんだからね!?これに懲りたら少しは
おとなしくしててよね!」
「それは《魔法使い》のせいではあるまい。《魔法使い》にちょっかいかけ
てくる連中のせいであろう?」
「それがあんたのせいだっていうのよ!ったく・・・」
まったく全然悪びれていない《魔法使い》に特大のため息をつくと、あた
しは彼に向かって手を出した。
「・・・何だ?」
いぶかし気な《魔法使い》に素っ気無く答える。
「あんたとはさっさと縁を切りたいし騒ぎは嫌だけど、そんな状態のあん
たがそのちょっかいとやらであっさり消滅されたら寝覚めが悪いもの」
ちょっと早口になったのは仕方がない。《魔法使い》の驚いた視線が何だか
むずむずするけれども。
しばらく躊躇った後、《魔法使い》の手があたしの手をパンっと叩いた。
すぐに離れたその後に、あたしの手に紙の感触が残る。
「言っとくけど、2度目はないからね!」
「・・・・・・・・・・・悪かったな」
ボソっと呟くと、ふっと《魔法使い》の姿が消えた。
照れ隠しなのか、体力が限界だったのかは知らないけれど。
「・・・・まったく・・・」
手にした彼のカードをピシっと指で弾くと、あたしはポケットに仕舞いこ
んで、部室を後にした。
怒りの感情はすっきりと晴れて、あたしの心は何故だかとても穏やかだっ
た――――

*****

「どう?」
「・・・・・・ますますわかんなくなった・・・・」
困惑したあたしの声に、《運命の輪》がくすっと上品な笑みを浮かべた。
「あなたたちはいつもこんな感じだったわよ?」
「・・・・実感わかないよ」

霊格を完璧に隠して2人の様子を見ていたあたしたちに、当然の事ながら
まったく気付かないで家に帰るライコ――――過去のあたし。
でも、まるで他人を見ているよう。
あたしはまだ、過去を完全に思い出していないから。
自分に自信が持てなくて、《魔法使い》の心が見えなくて。
だから、彼には内緒で《運命の輪》に頼み込んで、過去のあたしたちを見
せてもらいに来ていたのだ。
・・・・・でも、余計にわからなくなった。
何か、仲悪いし。ライコは《魔法使い》じゃない人好きみたいだし。
一体どーなっているのか、全然わからない。

「《女教皇》はどんな過去を望んでいたの?」
「え?・・・・それは・・・」
《運命の輪》の指摘に思わず口籠る。でも、きっと彼女はあたしが過去を
見たいと望んだ時からその答えをわかっているんだろう。
「お互いの嫌な部分を見てきて、喧嘩もして・・・だからこそよく理解し
あえるんじゃないかしら?見た目に騙されることなく、ね」
「・・・・そーかなぁ・・・?」
「最初に幻滅しておけば、後はいい所しか見えてこないものじゃない」
「・・・・・・それは何か違うと思う」
思わずジト目になったあたしを見て《運命の輪》が楽し気に笑った。
「焦らなくともそのうち思い出す時が来るわ。あなたの中に彼女はいるん
だもの。多少姿は変わっていても、思いは途切れることなく続いているものよ。
今のあなたが再び《魔法使い》のことを好きになったのが何よりの証拠ではな
くて?」
「・・・それは・・・そうかもしれないけど・・・」
ストレートな突っ込みに思わず頬が赤くなった。
好きになってしまったからこそ過去の自分に嫉妬してしまったのだから。
ぽりぽりと頬を掻くあたしの様子を見て《運命の輪》が微笑むと、手にし
ていた巨大な輪でトンっと宙をついた。
「さあ、帰りましょうか。彼が待っているわよ。ああ見えても心配性なん
だから」
「・・・・・うん」
うなづくと共に世界がぶれる。彼の元へ帰る為に。
この想いを大事にしていれば、いつか過去の記憶が戻った時に、全部受け
止めることができるだろうか。
――――今はまだ、もう少し。彼の隣に立つ自分に自信が持てないけれど。

* ****

「・・・我ながら手がかかるわよね、まったく」
ライコも《女教皇》も消えた部室に現れた《女帝》がため息をついた。で
も、その表情には微かな笑みを浮かべている。
ライコが細切れに破りばらまいた手紙の上に手をかざす。と白い光がきら
きらと零れ、スローで巻き戻しをしているビデオの映像のように破かれた手紙
が元通りになっていく。
「散らかしっぱなしでさ。明日部室に来た人が見つけて騒がれたらどうす
るつもりだったんだろ」
手にした手紙を指先でピンっと弾くと、一瞬にして燃え上がった。まるで
鮮やかな手品のように、後には燃えかす1つ残っていない。
「・・・・こんな頃もあったのよねぇ」
この手紙は恋に恋していた頃の象徴。
この頃の想いが無駄だとは思わないけれど。
でも、あたしたちにこれはもう必要無いから。
ライコはもうすぐ気付かされる。
《女教皇》はもう気付いている。
綺麗ごとだけの恋じゃない、傷ついても手放せない、誰かを愛するという
ことを。
何度忘れても離れても、本気の想いは必ず自分の中に還って何度でもただ
1人を追い求めていくのだから。
「本当に不器用よね。あたしたちは」
クスっと笑って翼を広げ、《女帝》は光の固まりへと姿を変え、時の流れに
身を委ねた。
あたしたちと同じくらい不器用な想いを抱えながら、いつでも手を差し伸
べてくれるたった1人の元へ帰る為に。

 

届けられることのなかった内緒の手紙は。
でも。そこに綴られていた純粋な想いは、相手を変えて今もあたしたちの
心にそっと仕舞われている――――

Fin

 
―――――――――――――――――――――――――――――――

和音のコメント

 2000ヒット(・・・一体いつの話だ・・・)のお話をお届けします。
『《女帝》から送られてきた手紙に驚愕するライコ
いったいそこには何が書かれていたのか?
裏で糸を引く《女教皇》の思惑とは?
次回急展開! 心して見よ!!』
 ・・・・というリクエストだったのですが、見事にかすってます(泣)
軽々しく了承した過去の自分が憎い・・・(^^;)
何度も書き直ししたんですが、なかなか上手く行かなくて。
裏で手を引いてるのは《女帝》じゃないか!と突っ込まれそうですが、あ
たしにはもうこれでいっぱいです。
上手くリクエストをこなせなくてごめんなさい。
こんなのでよろしければ、もらってやって下さいませ。

鈴麻のコメント

 うきゃ〜(>_<)まだ出会ったばかりの二人ですの〜
読んでてすごい懐かしかったです。
 手紙がすっごく効果的に話を盛り上げてて改めて和音さんの文才に感心でしたv
ライコちゃん、乙女心は複雑なのよvって感じですか(笑)なんにせよ、
ライコ可愛かったです\(^o^)/(結局それか)

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