投稿者:杉八さん
大きな大きな白いキャンパス。
彼はそこに足跡をつける。青いあおい足跡を。
―――それはどこか遠い昔に聞いたおはなし。
知らない国の物語。
あたしはふっと覚醒した。
気配を感じたのか、あいつがするりとやって来る。
「どうかしたのか?」
と問う声に
「夢を見たんだ。」と返しつつ。
「怖い夢か?」と問うあいつに、答えずくすくす笑ってやった。
「ねえ、ずっとそばにいてくれるよね」
答えなどわかりきった問いを放てば、あきれたように小突かれた。
「当たり前ではないか」と言うその声が、耳に優しくうれしくて
ああ、≪魔法使い≫はあたしの人生にこれからも消えない足跡をつけるのだと
笑いながら思い、そして願った。
―――今となってはそれももう昔のこと。
真っ白な砂浜に足跡をつける。あいつの足跡に並べて。
消えないようにしっかりと。
くっきり残ったその足跡が、なんだかあたしの生きている
証のように思えて。
そう言ったら、やっぱりあいつは笑ったけれど
黙って隣を歩いてくれた。
その足跡もいつかは波にさらわれて消えてしまうけれども……
歩んできた道だけは見失わないように、
あたしは絶対に負けないと心に誓う。
「ねえ、≪皇帝≫。ある画家の話をしてあげる。
妻に先立たれたその画家は、死ぬ前に一枚の作品を残したの。」
「そう、たくさんの彼自身の足跡のついた作品を。
それを見つめて、彼はこう言ったの。悪くない『人生』だった。って」
―――もちろんその作品の名は、『人生』。
「むかしあたしはこう思ったの。
歩んでいくあんたの足跡を見てみたいと。
でも今はもっと欲張り。」
言葉を切って振り返る。
砂の上には続いていく足跡がふたつ。
「なんてったって、あんたの隣を歩いてるんだからね。」
にやっと笑って駆けていく。
―――そうして願う。これからもずっとふたりで歩いていくことを。
そして思えたらいい。悪くない人生だと。
投稿者後書き
初めて書いた小説です。何だか短い気がするのですが、これが精一杯でした。
テンポの良さを目指したのですが、あえなく玉砕。
画家のお話の部分は実際の私の夢からとっています。
部長のコメント
主人公カップリングの未来と過去が交差して、でも一緒にいる事はかわらない。
短い会話の中にぎゅぎゅっと幸せが詰まっている、そんな素敵なお話でした。
《女帝》の最後は原作にて語られていますが、やっぱり「悪くない、幸せな人生だった」って思っているんだろうなーと思います。そこに繋がっているような気がします。
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