投稿者:cynthiaさん
――― それは万人に有り、万人が迎え行くもの ―――
〜Happy Birthday〜
「着いたわ。」《運命の輪》が静かに告げる、まだ夜が明けきらない空は、暗い色を持っていた。
「1965年11月13日土曜日、正確な時間は、午前6時45分10秒・・・。」《運命の輪》はにっこり微笑む。
「ここでいいのね?」彼女の後ろにいた《女教皇》がこくりと頷いた。
「そう、それじゃ私は少し外すから・・・どうぞごゆっくり」《女教皇》は顔を少し赤くする。
《運命の輪》は次の瞬間、ふっと消えてしまった。後に残ったのは《女教皇》と《魔法使い》だけである。
《女教皇》薄白い息を吐き出しながら、鈍黒い空を見つめる。空には星も無く、月も無かった。
「・・・高いなぁ・・・。」《女教皇》は感慨深そうに呟く。
「ふん」それを聞いていた《魔法使い》が鼻を鳴らした、《女教皇》はじと目を向ける。
「空が低いところにあるわけが無かろう。」リアリストらしく、もっともな意見を述べる。
《女教皇》は少し膨れながら、「あーたねぇ、そういうロマンを台無しにするようなこと言わないの」と食ってかかる。
しかし《魔法使い》はそれ以上このことについて語ろうとはしない、別の話題を持ちかけてくる。
「何故、報酬にここにくるとこを望んだ。」
《女教皇》は一瞬困ったような表情を見せた、何と言っていいものか、迷ったのだろう。
「別に?ただ来たかっただけだよ」《女教皇》はつんと明後日の方向を向いてしまう。
《女教皇》の目線の先には、暗闇の中ひっそりと佇む古い病院があった。
《魔法使い》は《女教皇》の前に姿を現す、《女教皇》は膨れながら《魔法使い》の顔を見つめる。
「《女教皇》は嘘つきだなァ」《魔法使い》は《女教皇》のおでこをつんとつついた。
「なっなにすんのさ!!」《女教皇》はおでこを抑える、《魔法使い》はニヤリと微笑んだ。
「今日ぐらい、素直になったらどうなのだ。今日は《女教皇》が生まれた日なのだぞ?」と優しく語りかける。
しばしの沈黙が流れる、《女教皇》はゆっくりと口を開いた。
「・・・自分が生まれてくるのを、確かめたかったんだ。」
せきを切ったように喋りだす。
「長い間精霊やってるとさ、本当に自分が人間だったのか・・・信じれなくなちゃってさ。」あはは、と笑ってみせる。
けれど、笑ってみせる《女教皇》の瞳には、泪が浮かんでいた。
《魔法使い》はそっと《女教皇》を抱きしめる、青い外套が現れていく太陽に少しだけ照らされている。
「《女教皇》は・・・いや、ライコは確かに人間だったぞ。」《魔法使い》は《女教皇》に囁きかける。
「《魔法使い》が保障してやる、ライコは確かに人間だった。得体の知れない者ではなかったぞ。」
《魔法使い》は《女教皇》の顔を覗き込む、輝く宝石の瞳が眩しい光に反射して、キラキラと無限の瞬きを見せる。
「しかし、安心するのだなァ」《魔法使い》はもう一度ニヤリと微笑む、《女教皇》は「なにが?」と聞き返す。
「例え人間でなかったとしても、《魔法使い》は
ライコを愛しい存在として守り続けてやる。」
《女教皇》は顔を真っ赤にして恥ずかしがる、だが《魔法使い》はいたって涼しい表情だ。
リアリストなのか、ロマンティストなのか・・・。判らなくなるような科白である。
《魔法使い》が《女教皇》の身体をそっと放す、煌めく太陽が、暗い空に燦然と輝いていた。
―――おぎゃぁ、おぎゃぁ、おぎゃぁ―――
《女教皇》はハッと振り返った、それは確かに、自分が生まれた声だった。
「おめでとう、ライコ。」《魔法使い》がもう一度《女教皇》の身体を包み込む、《女教皇》は嬉しそうに笑った。
「ありがと、《魔法使い》。」そうお礼を言うと、《魔法使い》は照れくさそうに「ふん」と鼻を鳴らした。
〜Happy Birthday〜
――― それはこの世に生まれ、この世に生を受けた日 ―――
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