私の名前は。 円海学園に通う高校一年生。 新聞部部員で、ライコと唯、タイガ君とも仲のいい友達だ。 そう、つい最近まではただの高校生だった。 ただ、霊感が人よりも強いという以外は。 けれど、 資料室の取材の翌日、ライコの傍にいる≪魔法使い≫とかいうタロットの大精霊が見えた日に、私の人生は狂ったといっても過言ではない。 その日から、なんだか分からない現象に巻き込まれた。 人が虫になったり、他の大精霊にセクハラされたり、数え切れないほどの面倒ごとに巻き込まれた。 否、「今も」なのだから、この面倒ごとは現在進行形で起こっているという方が正しい。 常々、自分の能力を呪いたくなった。 だけど、今は、少しこの能力に感謝している・・かもしれない。 なぜなら、彼に出会えたから。 distance 「遅い・・・」 はそう呟きながら、目の前のビルにある電光掲示板を見上げ、そこに表示されてある時刻を再度確認する。 現時刻、13:30。 集合時間13:00。 今後の対策などと言って、待ち合わせの場所を指定したのは、ライコの方だと言うのに、なぜ、自分は噴水の前で忠犬ハチ公よろしくと言わんばかりに、待たされねばならないのだろう。 その間に、時間は刻一刻と過ぎていく。 「絶対、超特大ケーキ奢らせてやるぅ〜」 そう硬く決心をしながら、は胸元に持ってきた拳を強く握り締めた。 「超特大ケーキとは、なんだ」 「そりゃ、この間駅前にオープンしたばっかりのお店にある生クリームたっぷりフルーツたっぷりの・・・・・・って、そうじゃなくって、遅いじゃないの!一体今何時だ・・・とぉ!?」 尋ねられた言葉に真面目に解説を始めた自分にハタと我に返ったは、やっと現れた相手に視線を向けて抗議の言葉を述べようとしたところで、動作が途中で止まる。 そこにいた人物があまりにも予期していなかった人物だったからだ。 「≪戦・・・≫!・・っと、≪戦車≫なんで、あなたがここに居るの?」 大声で叫びそうになったのを、なんとか押しとどめ、目の前の相手に小声で尋ね返す。 「水元ライコ嬢が緊急フェーデで来られなくなった」 ≪戦車≫はの問いに簡潔且つ分かりやすく説明をしてくれた。 「緊急フェーデぇ?」 確かに、予告なしのフェーデもあるだろうから緊急なのは、理解できる。 けれども、会議の後はライコとショッピングも兼ねていたので、せっかくの楽しみが水の泡になったことに、は少し拗ねた口調で言葉を返した。 けれども、の言葉に≪戦車≫はただ頷くだけだ。 「うーん、分かった。仕方ないもんね。フェーデ終了後にでも、また誘うよ。わざわざ報せにきてくれてありがとう」 は大精霊を言伝に使ったライコ――いやもしかしたら≪魔法使い≫かもしれないが――に対して苦笑を一つ浮かべて、≪戦車≫にお礼の言葉を告げる。 「さて、この後、どうしようかな・・・」 そう呟きながら、本日の余り時間をどう過ごそうか思案する。 「何か用事があるのなら、拙者も付き合おう」 「・・・・・・・・・はい?」 用件が済んだのだから、もう居なくなったと思っていた人物の声と、予想外の言葉に、は素っ頓狂な声を発した。 「拙者も付き合う」 の問いかけに、≪戦車≫が律儀に同じ言葉を発した。 「あ、いや、それは聞こえたけど・・・・・・なんで?」 の知る限り、≪戦車≫が買い物好きだと聞いた覚えはない。 なので、は、率直にその理由を本人に尋ねた。 「ライコ嬢が大河に電話し、大河から拙者がの用事に付き合うように言われたからだ」 その言葉を聞いて、は精神的に頭が痛くなり、手で額を抑えた。 嘘をつけない彼が言うのだから、嘘ではないだろう。 本当に、大河がそう告げたことになる。 (タイガ君、君の大精霊を私の買い物の駒に使えって・・・??) そう心の中で呟いても、本人の耳に届く事はないのだが、そう問わざるを得ない。 「?」 ≪戦車≫はそんなに、疑問系で名前を呼ぶ。 「あ、あのね・・」 「彼女、何一人で呟いてんのぉ?」 ≪戦車≫の呼びかけに反応しようと声を発したの耳に、聞きなれない声が飛び込んできた。 はその声のした方を向く。 「さっきからずっとそこに居るよね?もしかして、彼氏にでも振られた〜??」 少し派手めのシャツに、ニヤついた表情、そして、この台詞。 誰に問わずとも、想像できた。 いわゆる軟派と言うやつだ。 「一人ってわけじゃないんだけどなぁ・・・」 はポツリとそんな感想を漏らすが、生憎相手に≪戦車≫が見えるはずもないので、無意味な言葉に終わる。 「そういうわけで、俺と一緒に遊ばない?」 「はぁ?」 何が「そういうわけ」なのか全く分からない結論をつけられ、は訝しげに返事を返した。 「まあまあ、いいじゃん」 そう言って、相手はの腕を取る。 「って、ちょっと、離して下さい!」 訳も分からない相手に易々とついて行くほど、も軽くはない。 精一杯の力で否定する。 けれど、男と女。 力にも限界がある。 「離せ」 そんな中、とその男の間に声が降りかかった。 「いて、いててててっ!!」 相手の了承を取ることなく、男の腕を掴み上げる。 「何すっ!!」 その腕が離された後、男は腕を抑え、相手を睨みあげ、抗議の言葉を上げようとしたところで、言葉を止めた。 長身の男がこちらを無言で睨み付けていたのだ。 「は拙者の連れだ。手を出さないで貰おう」 ≪戦車≫の言葉に男は、顔を青くさせた後、地に降ろしていた腰を上げ慌ててその場を去っていった。 そんな遣り取りを傍で見ていたは、≪戦車≫に視線を合わせたまま固まっていた。 今、目の前に居る彼は、いつも見ていた≪戦車≫のあるべき格好ではなかったからだ。 鎧に包まれていたはずが、今は、カッターシャツにジーンズという出で立ちだ。 (ああ、そう言えば、この間ファッション雑誌を読んでいた時にあったあの服と同じだ) 混乱のせいかそんな悠長な感想まで出てしまった。 「、大丈夫か」 「へ?・・・あ、うん、なんとか!」 突然の言葉に、は何とか思考を現実に引き戻して言葉を返した。 「それなら良いが」 (そう言えば・・霊格を変えられることが出来るんだったよね・・・) 少し冷静さを取り戻したは、周りから突き刺さる女性の好奇な目線に気付き、再度≪戦車≫を見上げた。 さすが、タロットの精霊と言うべきなのか、整えられた顔立ちに、鍛えられた体つきをしている。 改めて思うが、≪戦車≫はやっぱりカッコいい。 過去に、ライコと交わした恋愛話で、最初に頭に浮かんだのが、≪戦車≫だった。 あの後、ライコを誤魔化すのが大変だったのだけれども・・。 その事を思い出してか、の頬が少し赤く染まる。 (うわぁぁぁ、落ち着け、私!) 体温の上昇した頬を両手で抑えるも、それがすぐに収まるはずもない。 「、どうかしたのか?」 「ううんっ!なんでもっ、今日はちょっと暑いかなぁなんてね!そう思わない?」 あはは、と笑いを漏らして、手でパタパタと顔を仰ぐ。 そんな動作に、≪戦車≫は相も変らぬ無表情で、「拙者には気温など無意味だ」と返した。 「ああ、そっか」 も、≪戦車≫の言葉に、精霊が物質に束縛されない事に気付いた。 「行かぬのか?」 「・・・どこへ?」 突如、話を変えた≪戦車≫には疑問符で返す。 「買い物とやらだ」 「あ、ああ!」 さっきのことですっかり忘れていた。 「んーー、あのさ、≪戦車≫。嫌なら、付き合わなくても・・いいよ?」 首をかしげて、は困った笑いを浮かべた。 買い物に付き合う≪戦車≫ 本人には失礼だが、考えてもどうにも想像がつかない。 「私なら一人でも大丈夫だしさ!」 「・・・・・・・・・」 言葉を続けるに、≪戦車≫は無言で返す。 「拙者は嫌だとは一言も申してはいない」 「え?」 聞き返すを余所に、≪戦車≫は背を向けた。 「≪戦車≫?」 「早くしないと日が暮れる」 顔だけをに向けて、≪戦車≫は言葉を続けた。 その言葉の意味を理解したは、驚きにしばらく動けなかった。 ≪戦車≫が買い物に付き合ってくれるのだ。 途端に先ほど冷ましたはずの頬にまた熱が舞い戻ってきた。 (どうしよう、マジで嬉しい・・・) 顔までもニヤける始末だ。 「、いかがする?」 「行く!!」 再度の≪戦車≫の問いかけに、は笑顔を浮かべて頷いた。 実は今回のことは、二人の中を進展させるためにライコと大河の考えた計画であった。 つまり、と≪戦車≫はまんまと彼らの計画にはまったというわけである。 そんな確信犯な彼ら−精霊を含む3人−はどうしていたかというと、 デートをしている彼らの跡をつけていたのであった。 後日、その事実を知り、顔を真っ赤に染め上げるの姿があったとか。 残念ながら、今≪戦車≫と仲良くデートをしているがそれを知ることは叶わない。 とにもかくにも、今回の一件で彼らの距離が縮まったのは確実だろう。 終わり −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 如何でしたでしょうか?きっと、運タロでドリームに挑戦したのは、 私が初かもしれませんね(苦笑) 今回、誰にしようかと、悩みました。≪魔法使い≫だと、ライコ派の方が多いでしょうし 片桐?大河?…延々考えて・・≪戦車≫に致しました。 因みに、本貸し出し中につき、原作無視です。(←待て) おまけに甘くないです…(汗) ヒロインは一般人だけれども、彼らが見え、 成り行きでライコたちに協力する事になった人物です。 なぜ見えるの?とか突っ込みはしないでいただけるとありがたい・・ このような作品ですが、お気に召されますと幸いです。 えと、石だけは投げないでやってくださいませっ(切実) −−−−−−−−−−−Written by Makoma Minagami−−−−−
|
部長のコメント
副部長のコメント
|