投稿者:麻生水城さん
文華から返してもらうはずのペンダント。
返しにきたのは、茶髪の、嫌味なくらい、顔立ちの整った少女だった。
文華をどこへやったの。
大事な友達 たった一人の親友 あたしの大切な人を!
「陽子、陽子ってば!」
友達である沙耶の呼びかけに意識が取り戻された。ふと横を見ると、自分の呼びかけに気づかない沙耶が少し怒った顔であたしを見ている。
「あ、ごめん。なに?」
やっとあたしが気がつき返事をすると、沙耶は少し大きくため息をつき、腰に手を当てた。
「あのさ、今から朝礼あるらしいよ」
「え、今月の朝礼はもうやったじゃない」
少し目を丸くすると、沙耶はまたため息をつく。
「陽子も察しがつくと思うけど?」
その言葉に、あたしは、ピンときた。
そして、思わず口にする。
「文華・・・」
「そうよ、あの子のことで緊急に集めて話するらしいの」
もう文華がいなくなって、1ヶ月は経っている。
夏休みが終っても帰ってこない文華を学校側がいぶかしみ、実家に連絡をしてみたら、
「文華は帰ってきてませんよ。どこか出かけてるんじゃないんですか?」
と、寮監が受けた家族からの電話とは全く食い違っていた。それが余計、教師たちに疑いを持たせることになった。
どちらにしろ、帰省届けを出し、実家に帰ったはずの文華は帰ってこなかった。
・・・当たり前よ。彼女が進んであの家へ帰るわけないもの。
あの女が、文華をどこかへやってしまったのよ。
あの女さえいなければ。
あの女さえいなければ文華はここに、あたしのそばにいたのよ。
「このような事態が起きないよう、我々教師たちも気を引き締めてきたが・・・・・・・・」
ただでさえ暑いというのに、狭い体育館に全校生徒。人口密度が上がって、さらに暑苦しくさせている。
その暑さの中、壇上に立っている校長は、汗を拭きながら長い講話を延々と続けていた。
「デモなどというものは、私たち、れっきとした国民にとって、全くの無意味であり、国家への冒涜だ。この中に、あの生徒のような・・・」
文華は、もしかして、恨んでたの?
この国を、自分を育む周りの環境に、絶望したの?
まるでお経のように長い講話は、あたしによからぬことばかり思いつかせる。
いけない、わたしは文華を信じてるのよ。
文華の言った言葉、信じなきゃだめ。あの子の口から直接紡がれた言葉が彼女の真実。
―――数ヶ月前に、文華に尋ねた。家族を恨んでいるのか、と。
『陽子、うちはな、別に恨んどるわけやないんや。だってそうやろ?もし、うちがああいう環境やのうて、普通の家庭で育っとったら、陽子と会うことなんてできひんかったんよ?せやから、恨んどるわけでも、どうこうしようなんてこと、考えたことあらへんのよ』
『あんな辛い環境耐えてきたんは、陽子に会うためやったかもな。よーやくうちにも運(チェス)が回ってきたっちゅーことや』
文華は笑ってあたしに話した。
あのときの文華の笑顔には曇りなんてなかった。ひまわりのような明るい笑顔をあたしに向けていてくれた。
だから。
いつか、帰ってきてくれる。絶対帰ってくる。
『ごめんな〜陽子ぉ。今度甘いモンおごるから、機嫌直したって〜!』
なんて、あたしの心配なんてすぐに消えてしまうような笑顔で言ってくれるわ。
それまで待とう。帰ってくる。
文華を信じて。信じなきゃ、親友なんだもの。
だから、信じる。
文華のすべてを。
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