投稿者:ゆずさん
田村は世界を攻撃する。
今、田村はミサイルの上にいた。
眼下には、地球。
ちっぽけな自分など目もくれずに、ゆっくりゆっくり回っている地球。
我知らず、笑いがこみ上げてきた。
田村はミサイルだけでなく、身の回りにも障壁を展開していた。移動による空気の流れは、田村に全く影響を与えていない。
こみ上げる笑いは、哄笑に変わった。
その声には念動の力がこもっているのか。
それまでぴくりとも動かなかった田村のスカートが、髪が、哄笑と共にはためいた。
髪の毛が口の中に入るのさえ気にせず、田村は嘲笑った。
ああ、うれしい。
田村は、喜びに身を震わせた。
自分を無視して変化し続ける地球が、・・・世界が、今まさに自分の手で変わるのだ。
田村は世界を攻撃する。
***
彼女は世界を愛している。
「あたしはティターンズだ。あんたたちとは違う。"改変"のために人を殺すような真似はしない」
田村に追いついた、12枚の翼を携えた可愛らしい姿の《女教皇》が言い放った。
運命は自分を裏切らないと考えているから出てくる、無垢な言葉。
田村は、嘲笑を浮かべた。
なんて傲慢な女。
「そう・・・似合っているわよ、その翼。合計12枚の翼だなんて、素敵だと思う。これであなたにあと18 個の目がついていたら、あなたの運命を象徴してくれるのに」
人が殺されるのが嫌なのよね、あなたは。
・・・世界を破滅に導くくせに。
人の死を厭うあなたの営みが、世界を破滅へ向かわせる。なんて滑稽で、なんて哀れ。
傲慢な水元さん。
あなたの代わりに、あたしが運命を変えてあげる。
田村は、何も知らないそして忘れている《女教皇》に、さらに言葉をつむいだ。
「わかっているわよ、あたしには。あたしは世界を救うのよ」
「あんたのやっていることの、どこが救いになるっていうんだよ。・・・あんたは人類を滅ぼそうとしてるんだよ」
《女教皇》は、翼の下に広がる地球を指差した。
みんなを守るんだ!
《女教皇》は、指先の地球に視線を移す。今まさに生命の危機にさらされている人々。《女教皇》は、自分の正しさを再確認する。
彼女は世界を愛している。
***
田村は世界を攻撃する。
彼女は世界を愛している。
「あんたはなにがそんなに気に入らない」
《女教皇》は、田村との問答に納得がいかないと言わんばかりに、奥歯をかみ合わせている。感情を必死で抑えている様が可愛らしかった。
「あたしが気に入らないのは、あたし。・・・・そして、あたしはあたし以外のものも気に入らない」
田村は自分が嫌いだった。しかしだからと言って箱の中に閉じこもっても自分が消えてしまっても、世界が自分を無視して存在し続けるかと思うと厭わしく、ただで消えてしまうわけにはいかないと考えていた。
田村の脳裏には、トラウマとなっている過去の幻影がちらついていた。
あたしも、あたしを無視して変わる世界も大嫌い。すべて消えてしまえばいい。
「《死神》もなの?」
《女教皇》がさらに投げかけた疑問に、田村は思わず微笑んだ。
永遠の愛を信じている無垢な彼女。まるで《正義》の協力者の孫のようではないか。
「あなた、かわいいわ」
でもね、人はずっと一緒にいることなど無理なのよ。必ず別れの時が来るの。
別れの不安に怯えなければならないのなら。共に過ごす喜びよりも。
一緒に消えたいわ。
田村は世界を攻撃する。
その行為が改変として成立するならば逆に世界が救われるという事実も、田村には滑稽で小気味よく感じられた。
しかし、たとえ世界への攻撃が成功しなくても田村はいっこうに構わなかった。
だって、あたしにできなくても・・・水元さん、あなたがやってくれるもの。
世界は消える。
彼女は世界を愛している。
もう人は苦しまなくてもいいの。
田村はうっとりと喜びに笑う。
「大好きよ、水元さん」
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