投稿者:ゆりなさん
「陽子・・・。」
「陽子・・・。」
「陽子・・・。」
懐かしい声が、響く。
最後に聞いたのは何時だったろう。
夏休み。高校で過ごした、文華との最後の夏。夏の日の、悲しい夢。
「どうしたん?」
といって、覗き込んでくる少女。
「あ、文華!今日は居残り補習なんだぁ。面倒臭くって。」
私はそう言って、プリントを見る。
数式が嫌になるくらいに並んでて、はっきり言ってやる気をなくした。
彼女は、笑って言う。
「陽子は今日、あんまり、チェス(運)がなかったんやね。」
「・・・そうかも・・・。」
彼女は、やさしく私の肩を叩いた。
「明日は今日の分チェスが回ってくるさかい、頑張り!」
「暑くってやる気ないけどね・・・。」
そう言って、二人で笑っていたのは、ほんの数日前のことのようにも思える。
「えっ?実家に・・・?」
「そうや。」
あの日。急に文華が実家に帰ると言い出した。
「で、でも、居残りの紙提出したって・・・。それに・・・。」
私、口ごもってしまう。文華は、察したのか、後を引き継ぐ。
「うちは、あの人たちにとって、居なくなって欲しいほどの嫌われもんや。でも、
しょうがないやん。1回ぐらいは顔見せんと、存在ごと忘れられるやろ。」
「そんな・・・。」
文華の実家の事は、私も知ってる。でも。
「心配せんと。先輩の事気にしてはるのやろ?大丈夫やって。うちの性格は、陽子も
よくわかっとるはずや。」
「・・・うん。信じてる。じゃあ・・・。」
私。自分の首にかけてるネックレス。文華にかける。
「・・・?陽子・・・?」
「約束。絶対に文華は戻ってくる。戻ってくるはず、戻ってこなきゃダメ!」
涙があふれる。いつも救ってもらうのは私のほうなのに、文華のために私はこんな事
しか出来ない。
情けない。
「・・・大丈夫やって。戻ってくる。必ず、ここに。約束や。」
でも、彼女は戻ってこなかった。
私は泣いてる。また、最後にあったときを夢に見て。
机の上においてあるネックレス。私のものに違いない。だけど。
文華は、帰ってきていない。それだけは、事実だ。
あの時、「文華の代わり」に来た少女は、いつのまにか消えてて。
文華のことは、結局聞けなかった。
本当は分かってる。
でも、待たずにいられない。
何度、涙を流そうと。
文華は、きっと帰ってくる。
「ごめんな」って、笑って。
きっと・・・。 |