【禊】

投稿者:りなさん

二人の少女が空で対峙している。
同じような年頃だが2人とも傷だらけで、1人はフリルの沢山ついた服、
もう1人は時代を感じさせる半端なスカート丈の半袖のセーラー服少女だ。
そんな二人が地上より遥か上空で睨み合っている。

いや、相手を睨んでいるのはセーラー服の少女のみで、フリルの少女は冷たい笑いのまま、
少女を愛おしそうに見ていた。
「ふふ。このフェーデはあなたが勝ったのよ。私ではなくあなたが。
 もう少し喜んだら、どう?」
田村は全身から流れ落ちる血の赤さ、疼く痛みも気にせず微笑んだ。
最上級の冷たい笑みで。
「…敵とはいえ、人がケガしてんのみて平気なわけないやろ。」
顔をしかめながら文華が呟くと、相手のそれまでの暗い笑みから一転、
はじけた笑いにとってかわった。
笑うたびに乾いていない血が滴り落ちる。
文華もあちこちに切り傷が目立つが、彼女と違って生死に関わるものでは全くない。
「うふふ…。やだ、同情?ありがとう。…嬉しいわ。
 この世界に私のことをそう思ってる人がいるなんて。」
決してありがとう、と思ってないくせに。
人間だから。嘘がつけるから。
「あんたは…あんたは何でこの世界がそこまで気にいらへんのや?」
「決まってるわ。この世界が私を生産しているから。」
その答えは具体的でもあり、抽象的でもあった。
「私が嫌いなのは私。
 私を作ってるものは、私のことを知っている人達の共通認識。
 そしてこの世界。」
「やけど、他人を道連れにする必要はどこにもあらへん!」
堰をきったような怒声をあげて文華は持てる限りの力で光球を放った。
ひゅん、と鋭い音がする。
だがすれすれのところで、よろめきながらも田村は避けた。
体勢を整えなおし、言葉を続ける。
「昔、知り合いであなたと同じようなことを言った女の子がいたわ。
 その彼女はあなたと同じティターンズで、愚かで、醜い子だった。
 …似てるわね。」
「うちはジブンに醜い…いわれても全然むかつかへんよ。」
「そう?きっとあなたもその子に会えば分かるわよ。
 …運命の約束ならきっと分かるわ…。」
その時、《恋人たち》が文華の元に飛んで駆け付けた。
「どうやら、時間のようね。」
幼さが残る少年を軽く一瞥すると田村はくるっと向きを変えた。
「私もお迎えがきたみたい。」
「逃がすもんか!フェーデの報酬は封印なんだから。」
くすくす、と田村は笑う。顔は見えないが自嘲的な含みが強い声で。
「そうね。封印…。いいわね。だって私は死なないのだから。」
そのまま振りかえることもなく、一言「さよなら、また会いましょう。」とだけ残し、
少女の姿はかき消すようになくなっていった。
「時間移動…か。」

「《恋人たち》…。」
隣の協力者を仰ぐと、彼は泣きそうな表情で思いきり文華を抱きしめた。
「あの女の恐さをしってるのにどうして二人で話そうとするの?
 恐かったよ。文華に何かあったんじゃないかって…。」
少し震える少年の肩と、その温もりがとても暖かく感じられて。
「ごめんな…。」
その背中にそっと手を回した。
そんな《恋人たち》のぬくもりが嬉しくて。
文華はありえない永遠をすこしだけ願った。


投稿者後書き

一見、田村×文華ですが、実は田村×ライコなんです。
田村さんが死ぬ前の会話を想定しています。でも、消化不良気味…。
文華が《恋人たち》と仲、いいです。
けど、この二人空に浮かんで会話してるわけだから下から見るとぱんつ見えるよ…。

部長のコメント

そういえば、田村の最後のフェーデは《恋人たち》が相手でしたよね。となれば当然田村と文華の邂逅もあったハズで…。その時の二人の会話、私にはイマイチしっかりと思い描く事が出来なかったのですが、そうかこんな感じなのかなぁと思えました。
二人とも、心に深いものを抱えているキャラなので、その二人の会話ってすごく心魅かれて読まさせて頂きました(>_<)

副部長のコメント

田村さんって、やっぱり田村さんですね(^^;)
この後、あの時のライコの前に姿を現すんですよね・・・。
難しい人ですが、結構好きだったりするんですよ、田村さん(^^;)
そして、《恋人たち》v文華ですね♪
この2人も結構好きなんですーvv《恋人たち》が可愛くって、もうvv

> 下から見るとぱんつ見えるよ…。
そこ!!つっこみどころですかっ!?(笑)でも、確かに(笑)

色々考えさせられる素敵な小説を、本当にありがとうございました♪

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