【一人とヒトリの話】

投稿者:鳴神司織さん

(あぁ、どうしてこんなことになっちゃったんだろ)
 あたしのため息を聞くのは青い青い空ばかり。いつもなら素直に感動するそれも、
今日の気分じゃ……。
「《皇帝》の、ぶわぁぁぁぁかっ!」
 カラスがあほーあほー、飛んでった。

「ねえ《皇帝》、ちょっとあのお祭り見たいんだけど、寄ってもいい?」
 昔見て回ったお祭りと同じものだったから、ちょっと興味がわいたのよ。
 ……それだけが理由でも、なかったんだけど。ともかく押しまくって、
なんとか「少しの間だけ」と承諾を得ることが出来た。
「ちょっと! まさかあんたその姿で見物する気じゃあないでしょーねっ」
「《女帝》は莫迦なことを訊く。《皇帝》がそのようなことをするはずがあるまい」
 そう告げるのと同時。空気の流れが一瞬だけ変わる。現れた《皇帝》は、浴衣姿で、おまけに、
「ショートにすれば……うん、まだ違和感ないわね、そっちの方が」 
太陽の光そのもののような金糸は、首の中ほどまでの長さだった。
 あたしも、『水元頼子』曰く(って昔のあたしが考えてたことじゃん)ふんどしルックから
薄紅の浴衣にチェンジする。大きくなってからは紺とかしか着てないから、新鮮だ。
意気揚々とあたしたちは祭りの中へ降り立った。

「あたしはただタンに、《皇帝》と普通の恋人みたいなことがしたかっただけなのよ」
 それを。
 あの《皇帝》があそこまでご丁寧に姿を変えてくれたって言うのに。
「楽しそうじゃないだのなんだの、何であんなこと言っちゃったんだかな。あー、あたしの莫迦。
頼子のことダチョウって言ってたけど、あたしもまだまだじゃん」
 後ろに伸びかえる。突然目の前をさっきのカラスが横切って……ヤバい! バランス崩したっ!
 葉が舞い散るのが視界にうつる。ふわり、と体が木から地面への落下をやめたのは、その時。
「《女帝》は何をしている」
 心底あきれかえった声。独特の言い回し、凛とした声音。
 顔なんて見なくてもすぐに分かる。
「《皇帝》」
「…………《皇帝》があの程度で機嫌を損ねるほど心が狭いとでも思っているのか」
「何すんだよ……!」
 例のごとく額をこづかれて。
 あたしはいつもとは少し違う反応をする。
 唇をとがらせてそっぽを向いて。
 次の瞬間表情が固まった。
「《皇帝》……。これ…………」
「ふん」
 照れたように、でも尊大な様子で鼻を鳴らす彼。見てからあたしは喧嘩の一番の原因を見つめる。
 左手薬指の、指輪。もちろんおもちゃなんだけど。碧みたいな青みたいなイミテーションの
宝石が、きらきら輝く。
 そこでやっと気づく。落下が止まったのは、《皇帝》がキャッチしてくれたから。
そしてその《皇帝》は。
「何で、浴衣のままなの?」
「中途半端だったではないか」
「え? あ。まあ、そうなんだけど」
 そう、なんだけど。それ以上何も言えなくて、かわりの言葉を探す。
 でも先に口を開いたのは《皇帝》だった。
「人間は、結婚式の時にはこういうものを交換すると聞いた。が、タロットの精霊だからな。
 ……しかし、」
 《皇帝》の言葉が尻切れトンボに終わる。次の瞬間ふせられていた瞳があがり、
ニヤリという感じの笑みを浮かべる。
「それにしても《女帝》はまだまだ間抜けだなァ。《皇帝》たちは」
「はいはい。飛べますよ。わかってるって、どうせあたしは間抜けだよ」
「ふん」
 太陽を背にして笑った顔は、ノロケみたいでヤだけど、すっごくかっこよく見えた。
タロットの精霊だからじゃなくて。
「いこっか、《皇帝》」
 あたしも浴衣のまんまだ。って、ちょっと待て。
「《女帝》の姿は見えているぞ」
「えぇ! あんたは……姿消してるんだね? 例のようにっ」
「髪の毛の本数が数えられるかもしれないな」
「よ、よかった。黒くしてある…………じゃな────────────────いッ」

          春の日差しが周りを取り巻いている気がする。    

おまけ
「ありがとね、あたしの旦那様」
 あたしは《皇帝》に抱きついた。
 妙に体を硬くする《皇帝》にあたしは思わず吹き出した。


投稿者後書き


恥ずかしいけど気に入っている、という複雑怪奇な心境にさせる作品です。次はもっとラブラブを目指したいですね……。

部長のコメント

《女帝》と《皇帝》の夫婦ですねv
でも浴衣でお祭りでもって指輪交換で、夫婦というより
なんだか田舎の若いういういしいカップルって感じですv
素朴に可愛らしい感じでいいですv

副部長のコメント

うふふふふ〜〜vv喧嘩する程仲がいいってやつですね〜〜〜vv
万年新婚カップルめ(笑)相変わらずなのがまた素敵ですvv
2人の浴衣姿、しかも《皇帝》はショートだなんて♪ぜひその姿を見たいですね♪
妄想が膨らむ楽しいお話を(笑)ありがとうございました♪

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