【いつか帰るところ】

投稿者:鳴神司織さん

「何そわそわしてるの? カインちゃん」
「ミーナが遅い」
 コケティッシュな少女の甘えた声に、しかしカインは素っ気なく返す。
「トイレに出てったばっかじゃん。万一の時のために、〈小悪魔〉だって同行させてあるんだし、
何かあったらすぐにわかるわよ」
 それよりねぇ、と事務的な声音から、再び甘ったるいそれになる。
「《悪魔》ちゃんは、最近カインちゃんとこうしてないなあ」
 《悪魔》は、椅子に座っているカインの後ろに回り、抱きつく。
「『キャロライン』」
 短くカインは言う。聞いた途端、《悪魔》はあからさまな嫌悪を示した。その一言に込められた、
様々な言外の言葉を読みとったためだ。
 灰色の空から落ちてくる雪は大した量ではない。だが、確実に積もってゆく。
 ティールームにいる客の目を無視して、《悪魔》は席についた。
「−−つまんないの」
 今の彼女の顔には、嫌悪より別の色彩が強くなっていた。常ならば気づいているだろうカインは、
積もる雪を見つめ、深く深く考え込んでいた。
 そして、件(くだん)の少女も、トイレの前にある小さな椅子に腰かけ、思考の海を漂っていた。
彼女は不思議そうに。心底不思議そうにつぶやく。
「あおいそら……見るのが厭なはずなのに、どうして…………」
 どうして見えないと不安になるんだろう。
 席を外した理由は、トイレなんかじゃない。
 本当は、カインといるのが妙に息苦しかったのだ。
 いつも持ち歩いている革製のケースを取り出す。けれど、なぜか中のものを見る気には、なれない。
 呼ばれていたことがある気がする。
 ミーナ、じゃない。
 もっと別の響き。
 もっと別の抑揚で。
 
          まほう……

「! …………今、あたし、何、言おうと?」
 なんだろう。
 カインといると、厭わしいばかりだった青空が。
 雲一つない、青く、高い包み込んでくれるような優しいものと、感じた。
 無性にそれが恋しかった。  


投稿者後書き

私、好きな雪と、嫌いな雪があるんです。
 今回は後者で、灰色の空と、それに等しく暗い色の雪ってイメージ。つまるところ、別れの象徴としてのものでした。
 あぁ。にしても今回の出来もダメダメだわよ(苦ーっ苦っ苦っ苦)。3人のイメージぶち壊しまくり。クラッシャーだわ、ある意味。
 カインファン、《悪魔》ファン、ライコファン、ごめんなさい。はふぅ。

部長のコメント

登場人物それぞれの感情が、なんとも微妙なバランスを取っているな…と思いました。
何かきっかけが出来ようものなら、いっきにはじけてしまいそうな、あやうい感じ。
でも私はライコがなにやら愛おしいです〜。早く帰るべきところに帰れるといいなぁと思いましたv

副部長のコメント

3人のそれぞれのやるせない思いってのが、暗い色の雪に象徴されている感じですね

重くて、ハッキリしなくて、息苦しくて、不安で・・・
《女教皇》のカードが現われる直前くらいですか?
早く、すっきりと晴れ渡った青空と陽射しを。目を逸らすことなく見つめられるよう
になったらいいな、と心から思いました♪
またまた素敵なお話を本当にありがとうございました♪

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