注意
この作品は「チキタ★GUGU」という漫画の設定を元にした新昴パラレルです。
昴→人食い妖(あやし)
新次郎→妖にとってまずい人間
設定
この世界では妖にとって猛毒になるくらいまずい人間が存在する。
だが妖とまずい人間が100年共に過すと、その人間は妖にとって極上の美味に変化する
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「昴さん、いつか絶対にぼくを食べて下さいね」
彼はまっすぐに昴の瞳を見て、迷う事なくそういった。
昴はどんなものにも化けられる変幻自在の人喰いの妖(あやし)だった。
この世に生まれてから、今日という日まで
人の命を食料として何百年という月日を生きてきた。
だから
新次郎と出会ったその日も、餌に出会ったとしか思わなかった。
新次郎は、いわゆる妖怪退治屋だ。
村人から依頼を受けて、悪さをする妖怪の退治をしたり
妖(あやし)の被害にあった人を助けるのが仕事だ。
その日も、依頼人から山奥に行った家族が帰ってこない。
最近山に出没するようになった、美しい妖(あやし)の仕業ではないか、
との情報を得て、山奥にやって来た。
山は静かなようでいて、その実、小鳥や獣などの様々な命であふれている。
その気配を感じながら、新次郎は気を張り巡らせて山を昇っていた。
妖の気配を感じた瞬間、振り向きざま腰の刀を抜き放つ
だが、その刃は空を切る
「へぇ、なかなかやるじゃないか」
声の方を見上げると、人の形をした妖が木の枝の上に腰掛けていた。
それは、この世のものとも思えないほど美しい存在で
こちらを見て、笑みを浮かべていた。
昴と初めて目があった瞬間、新次郎はその美しさに心魅かれた。
黒い絹糸のようなさらさらの髪
白くて綺麗な肌
でも何よりもその黒い神秘的な瞳
あの瞳で見た世界はどんな世界に見えるのだろう…
思わず見とれて、立ちすくんでいた新次郎に
妖艶な笑みを浮かべた昴はゆっくりと近づき
新次郎の首筋にそっと舌をはわせた
「ま、まずい!なんだこれは!!」
「へ?」
昴の叫びに思わず我に返る。
「まさか、お前…」
妖の仲間に伝わる言い伝え
世の中には自分たちにとって毒になるくらいまずい人間が
何千人に1人の確立で存在するらしい。
そのまずい人間は、すぐに食べれば毒になるが100年共に
過せば、その人間は極上の美味に変化するという。
昴はもうずっと長い間1人で生きてきた。
100年くらいならこの人間と過すのも楽しいかもしれない。
「決めた。僕は君と100年を始めることにするよ」
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新次郎と昴が出会って数十年
共に過すうち新次郎にとって、昴はますます愛しい存在となっていった。
たとえいつか自分を食べる為とはいえ、100年もの間
いっしょにいてくれるというのだ。
新次郎はそれが嬉しくてしかたがなかった。
だから、昴が自分から離れていかないように
いつか自分を食べてくれと口癖のように言うようになった。
「君を喰えといわれても、ね」
口元に苦笑を浮かべながら、新次郎をのぞき込み
ぺろりとその頬を舐める。
「わひゃあ!!」
「まずい…ごほっ」
口をおさえ、うずくまる。
口内がしびれ、目まいがする。
「昴さん!大丈夫ですか?!駄目じゃないですか
まだ100年経ってないんですから!
今のぼくの身体は貴方にとって毒なんですよ」
少し舐めただけなのに、頭が朦朧として
意識が混濁してくる…どんなに息を吸って呼吸をしても
少しも楽にならない。
苦しい
だが、その苦しさが急に和らぐ。
気がつくと新次郎がうずくまる昴の方に手をおき
心配そうにのぞき込んでいた。
「昴さん、水です。うがいして下さい」
彼が触れた部分が暖かくて、そこからどんどん苦しさが
和らいでいくのを感じる。
「大丈夫だよ、新次郎。あぁ、そんな心配そうな顔をしないで
なら、肩だけじゃなくて、昴を抱きしめてくれないか?」
「でも、うがいした方がいいんじゃ」
昴はゆっくりと首をふって水をこばんだ。
せっかく彼の頬に触れたのに、うがいをするのは嫌だった。
最初はただの食料だと思っていたのに
昴にとっても新次郎はなくてはならない存在になっていた。
ずっと1人で生きてきた。
1人だったときはそれが普通だったから孤独を感じる事はなかった。
否、感じていても気がつかなかった。
でも、もう駄目だ。
昴は新次郎と出会って、自分の孤独と
受け入れてもらえる喜びを知ってしまった
もう1人には戻れない。
だが、頬に触れただけでこうなるなら、
唇にキスなんてしたらどうなるのだろう?
死ぬかもしれない。
でも、それもいいかもしれないと昴は思った。
彼に触れて死ぬのならそれでもいい、そう思えるほど昴にとっても新次郎は大切な存在となっていたのだ。
昴と暮らし始めて数年が経った頃、
新次郎は自分の体の変化に気がついた。
正確には、「変化していない」という事に気がついた。
「昴さん、もしかしてぼく、歳をとっていないんじゃ」
「今ごろ気がついたのかい?」
妖(あやし)と共に過す者は、その影響を受けて成長をとめてしまう。
「…嫌かい?僕といっしょにいるのが恐ろしくなった?」
「いいえ!ぼくうれしいです。だって100年経つ前に
ぼくの寿命が来たらどうしようって心配してたんです。
これならずっと最後まで昴さんといっしょにいられます!」
最後…
その言葉に昴は自分の胸が痛むのを感じた。
出会ってから100年経てば、新次郎は自分にとって「毒」ではなくなる。
でも、自分が彼を食べるなんて事が出来るのだろうか?
彼と過したこの数年の間
昴はとても幸せだった。
新次郎は妖怪退治の仕事をしていて、
さまざまな依頼人が来て依頼を受けては
二人で悪さをする妖の元へ出向き、追い払ったり、
悪質なものは退治したり封印したりといった仕事をしていた。
新次郎は人を助けるのに一生懸命で
たまにだまされて依頼料がもらえなくても
「でも、あの人が助かったという事実は変わらないですし」
と、にこやかに心の底からそういうような男だった。
また、昴が妖だとばれて、村から追い出された事もあった。
村人はそれまで新次郎に助けてもらった恩も忘れ、彼を罵倒した。
「お前が仲間の妖に自分たちを襲わせておいて、その後
退治していたように見せかけたんじゃないか!」
昴は悔しくて、村人を殺してやろうと思ったが
それは新次郎を悲しませると分かっていたので我慢した。
新次郎はなぐられ、蹴られ血だらけになっても
抵抗せず、必死で昴に害がない事を訴えたが、理解は得られず
最後には昴だけを連れて村を出た。
「すまない、新次郎…。」
「いいんですよ。だって昴さんだけはぼくについて来てくれましたし」
「違うだろう、僕がいたから、出て行くハメになったんじゃないか!」
「泣かないで、昴さん」
昴の頬に触れ、涙をぬぐう。
「もう…100年をやめる。僕はどこかに行くから
君は村に戻って、僕に操られていたとでもいいなよ」
「嫌です!昴さんどこにも行かないで!」
強く抱きしめられて、昴は驚きのあまり涙も止まってしまった。
「…なんで、そんなに僕といたがる?
僕は、君を食べるためにいっしょにいるのに」
「ぼくが昴さんを好きだからです。好きだからいっしょにいたいし、
人間はどうせいつかは絶対死ぬんです。
好きな人の為に死ねるなら、それはきっととても幸せな死に方です
だから、昴さんになら食べられるのも怖くない」
「新次郎…」
「だから、どこかに行っちゃうなんて事言わないで下さい
ずっとずっとぼくといっしょにいて下さい」
昴はそれまで自分を愛してくれる存在が
現れるなんて思ってもみなかった。
ましてやすすんで自分といっしょにいたがるなんて…
たまらなくなって、昴は自分も新次郎が
好きだと抱きついて告げたかった。
そうしたら、彼はどんなに喜んでくれるだろう!
…だができなかった。
人喰いで、彼の居場所を奪ってしまった自分に
そんな資格があるのだろうか?
それからいくつもの村を渡りあるき
時には誰もいない山の奥で二人だけで過した事もあった。
そんな月日は思い出すだけでも胸が暖かくなり
昴は自分が満たされているのを感じた。
そうしてある日気がついた。
自分がもう何年も『食事』をしていない事に。
彼と出会ってしばらくの間はまだ『食事』していたように思う
彼に『食事』のときの自分を見られるのは
嫌だったから、いつも彼に見つからないよう細心の
注意を払っていた。
でも、いつの間にか空腹を覚える事がなくなり
もうずっと『食事』をしていない。
いつからだろう?
きっと、彼が自分を受け入れてくれたのを
心が理解したときからだろう、昴はそう思って嬉しくなった。
これなら、新次郎を食べなくても
ずっといっしょにいられるかもしれない。
たとえ彼が毒でなくなっても、自分が食欲を感じないのなら
食べずにずっといっしょにいればいいのだ。
他の人だって殺さずにすむ。
そう思ってからは心が楽になって
毎日が本当に楽しかった。
だが、それは突然やってきた。
いつものように朝、起き上がろうとしたのだ。
でも身体は動かなかった。
しばらくするとすぐに動くようになったので
そのときは気にも止めなかったが、
昴の不調はその後も続いた。
身体全体がだるく、動きがとりづらい
なんといっても手に力が入らない
そのうちに歩くのさえもおっくうになってきた。
そのときになって気がついた。
ただ食欲を感じなくなっただけで『食事』をしなくても
生きていける身体になった訳ではなかったのだと。
自分はやはり、人を喰わねば生きていけぬモノなのだ
彼とは、相容れない生き物なのだ、と。
このまま『食事』をしなければ、衰弱していつか死ぬだろう。
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