当日4


思わず見上げて彼の瞳を覗き込む。
「昴さん、ぼくは今日という日をずっと楽しみにしてきました。
毎日楽しみで幸せでした。でも、待ち合わせ場所に行く途中で事故現場に遭遇して、ぼくは…」
そう言ってうつむき、一旦は僕から目をそらす。
でも、決心がついたのかまた僕をまっすぐ見つめる。
思い詰めたような瞳もまた綺麗だな、とこんなときなのにぼんやりとそう思った。

「ぼくは、『なぜぼくの目の前で事故が起きてしまったんだろう、
 事故なんか起きなければぼくは昴さんのところに行けたのに』
 真っ先にそう思ってしまいました」

耐えられなくなったのか、ぎゅっと目を閉じて涙をこらえる
だが、昴には分からない、何がそんなに辛いのか

「目の前に、苦しんでる人がいるのに、ぼくは一瞬とはいえ
自分の目先の幸せがなくなった事を残念がってしまいました」

驚いた。
そんな事は当たり前ではないのか?
自分がずっと楽しみにしていた事が中止になれば誰だって残念がるものではないのか
「ぼく、怪我をした人に申し訳なくてその後は必死に救助の
お手伝いをしました。昴さんの事を考えるのはいけない事のような気がして、
それで連絡も遅れてしまいました。ごめんなさい。
だから、危ないからって昴さんを呼ばなかった訳じゃないんです。
ぼくは昴さんに想ってもらえる程、そんなにいい人じゃない」

半分は嘘だ

僕への連絡が遅れた理由は、今彼が言った通り僕の事を考えるのに罪悪感を感じて
考えないようにしていたら、連絡の事も忘れたのだろう。
だが、それなら思い出して連絡を入れる時点で自分の状況を説明すればいい。
なのに説明しなかった。
それに、僕が事故現場に現れたとき「離れろ」と言った。
彼があの場所に僕を近づけたくなかったのは明白だ。
だが

「わかったよ、新次郎。すまなかった。
僕が我が侭を言っているのは分かっているんだ
もうこの話はここまでにしよう」

彼は純真でまっすぐ
僕の好きなところ、そして僕と決定的に違うところ

「はい!じゃぁまた今度デートのやり直しをしましょうね」
「今度でいいのかい?」
「へ?」
「最初に言っただろう、僕は君と過せるならどこでもいいんだ
 この部屋で、デートのやり直しをしよう」
「クリスマスの時みたいにお部屋でデートですね!
 わぁ、今日これから昴さんと過せるんですね、嬉しいな」

(来年も、その次も、もっと次の誕生日も、いっしょに過せたらいいのに)
口に出せば、彼を縛りつけるようで言えないけれど…

「あ、昴さん、ぼくまだ言ってませんでした。
お誕生日おめでとうございます!
来年もその先もずーっと一緒にいられるといいですね!」

思わずきょとんとした後、僕は盛大に笑い出した。
新次郎はそんな僕を見て最初は戸惑っていたものの
にこにこと、僕の大好きな笑顔になった。

「あぁ新次郎、ずっと一緒にいられるといいね」

僕も彼もお互い相手に恋愛感情を持っているのに
その想い方のなんと違う事か
僕は置いていかれるくらいなら連れていって欲しい
でも彼は決して僕を連れていこうとはしないだろう

ときには今日のようにその違いを切なく思う事もある。
だが、 想い方が違うからといってこの幸せを手放す気はない
目をやると、彼はにこにこと嬉しそうに笑いながら食器を出してお茶菓子を並べている。
彼が笑うと僕も暖かい気持ちになる
彼と出会ってから、ずっと暖かい
どうかこれからも、ずっとずっと暖かい日々が続きますように

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